皮膚は考える

皮膚は考える

 

人間の知覚情報の中には、意識しやすいもの・しにくいものが存在します。

 

 

・視覚および聴覚情報 → 言語化しやすい → 意識しやすい

 

・嗅覚および触覚情報 → 言語化しにくい → 意識されにくい

 

皮膚は触覚を担っているのですが、意識されにくい大きな情報の流れが存在する可能性があると言われています。

いわゆる「痛み」「痒み」などの情報だけではないのです。

 

 

皮膚は環境の変化に応じてさまざまな信号を発信しており、その信号が免疫系や中枢神経系などと密接な関係をもっていることが最近の研究であきらかになってきました。

 

 

また皮膚のバリア機構の再生についても、それが自律的なものであることが最近証明されてきています。

 

皮膚はそれ自体が独自に、感じ、考え、判断し、行動するものなのです。

 

皮膚は最も大きな臓器である

 

 

 

皮膚は人間の体表面をくまなく覆う臓器であると言われています。胃腸を「内臓」と呼ぶなら皮膚はさしずめ「外臓」と呼べるかもしれません。

 

成人の皮膚の面積は約1.6m2、たたみ約一畳分の大きさです。皮膚そのものの厚さは平均1.5~4mm、重さで評価すると皮膚のみで約3kg近くになります。

 

 

脳は1.4kg、肝臓は1.2~2kgであることより、人間にとって最大の臓器であると言えるのです。

 

皮膚は電池になっている

 

 

 

1982年にアメリカの有名な生理学雑誌「Journal of American Physiology」に「表皮はパワフルな電池である」という突飛なタイトルの論文が掲載されました。

 

 

それによると、人間やモルモットの皮膚、特に表皮は裏側を基準にすると100mV(ミリボルト)近いマイナスの電圧を持っているとのことです。

 

100mV=1Vの1/10であり、1Vも電圧があれば豆電球やLED(発光ダイオード)が点きます。薄い表皮が起こす電位としてはかなりの値であって、パワフルといっても不自然ではありません。

 

 

そしてこの表面電位は、生きている表皮細胞がエネルギーを使って起こしていることが確認されています。

 

 

皮膚は免疫を司る

 

例えば肝臓や腎臓を近親者から移植するケースはよくあります。心臓は全くの他人から移植した前例があります。

 

しかし皮膚を他人から移植できません。

移植してもすぐに剥がれ落ちてしまうのです。

 

免疫系の根本的な役割とは、身体の中に異物、例えば細菌などが入り込んできた時、それを「自分ではないもの」物質と見分けて殺し排除することです。

 

それは皮膚の表皮の中にあるランゲルハンス細胞が担っています。

 

 

皮膚には元々物理的に優れたバリア機能があって、そこで細菌などの侵入を遮断します。しかしそれが何かのはずみで物理的バリア機能が壊れ、皮膚内に異物が侵入してくると、このランゲルハンス細胞がそれを発見して、全身の免疫系に通報するのです。

 

 

このように皮膚のバリア機能は二段階構造になっています。

 

一段目・・・プラスチック並みの膜で異物の侵入を防ぐ

二段目・・・ランゲルハンス細胞が増えて免疫バリア機能が強くなる

 

先ほど述べた他人の皮膚移植に関しては、この免疫機能が逆に邪魔をしてしまいます。

 

 

移植される皮膚、移植する皮膚が互いに「自分ではない」と判断してしまうため、一時的にくっついても約2~3週間程度で剥がれ落ちてしまうのです。

 

皮膚は内分泌系に影響を及ぼす

 

表皮にあるケラチノサイト細胞は、ホルモンや神経伝達物質を合成することが分かってきました。

 

 

中でも情動や全身の状態に大きな影響を及ぼす「快楽ホルモン」のベータ・エンドルフィンも合成しているのです。

 

 

しかし表皮でベータ・エンドルフィンが合成されても脳に届くことはありません。そのため表皮で合成されている理由はよく分かっていないのですが、一つの仮説として表皮内の情報伝達に用いられている可能性があります。

 

 

また表皮の疾患と他の臓器疾患との関連について多くの臨床例があるそうです。大概の場合、内臓の異常が原因で、皮膚に表れる異常はその結果であると考えられがちです。しかし、表皮が様々なホルモンや情報伝達物質を産生する能力があることを考慮すると、逆に表皮の異常が内臓の異常を惹起している可能性もあると考えられているのです。

 

 

 

 

皮脳同根(皮膚の成り立ち)2

 

下図は人間の受精卵が細胞分裂を繰り返し、体の各器官の原型へと成形していく様子を表しています。

 

受精から16日目で、受精卵の中は外肺葉と中胚葉、そして内胚葉に分化していきます。

 

時間の経過と共に外肺葉は大きく二つに分化し、一つは表皮細胞、そしてもう一つは中枢神経に成長する神経管へと成長していきます。

 

元々脳と皮膚は同じ外肺葉(同根)であり、兄弟とも言うべき存在なのです。

 

 

 

 

引用元「第三の脳 皮膚から考える命、こころ、世界」傳田光洋 朝日出版社

 

皮膚は第三の脳

 

人間の体の中で、第二の脳と言われているのが腸です。

地球上の生物の中には、脳を持たない生物が存在します。その生物にとって脳に代わる役割を担っているのが腸であるのです。

 

そして最近では皮膚の研究が進み、第三の脳とも呼ぶべき機能を備えていると言われています。

 

 

下図は皮膚が受けた刺激についての神経伝達の概念について表しています。

 

 

 

 

引用元「第三の脳 皮膚から考える命、こころ、世界」傳田光洋 朝日出版社

 

これまでの考え方は、皮膚は刺激を受け取ることが目的の組織であり、情報処理に関しては末梢神経から中枢神経に送られて行われていると考えられてきました。

 

 

しかし最近の研究では、表皮内の刺激受容体に辿り着く前にすでに情報処理を行っており、中枢神経に辿り着くまでに刺激についての情報をある程度把握していることが明らかになってきました。

 

 

例えば皮膚は色彩の違いをある程度理解していることが分かっています。

 

皮膚は脳のように独自の情報処理を行う機能を持っているのです。

 

 

皮膚に触れる=心に触れる

 

例えば、あなたは他の見知らぬ誰かから体に触られたら、どんな感じがしますか?

 

怖いですか?不安ですか?気持ち悪いですか?・・・

多分あまりいい気分にはなりにくいと想像できます。

 

では、ご家族や友人、恋人から触られたらいかがでしょうか?

 

安心しますか?落ち着きますか?あたたかい気持ちになりますか?・・・

良い気分になりやすいと想像できます。

 

 

このように人間は皮膚に触れられることで、気分や気持ちに大きな作用が生まれます。

気分や気持ちに大きな作用が生まれることで、さらに体もまた大きく変化していきます。

 

 

心と体は密接な関係であると当院では考えていますので、皮膚への触れ方についても細心の注意を払っています。

 

 

どのような触れ方がクライアントさんにとって最も必要なのか、何を意識するべきなのかなど日夜研鑽に励んでおります。